現代日本におけるアイヌ語は消滅危機言語


2015年8月27日のNHKのニュースより

現代の日本におけるアイヌ語は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)によって「極めて深刻」な状態にある消滅危機言語に指定されている。

数百年間にわたってアイヌ民族の人々の母語として伝統的に使われ続けていたアイヌ語が、近代に入ってアイヌモシリが「北海道」として完全に日本の支配下に置かれてから急速に衰退し、ほとんど使われることがなくなったのは、まぎれもなく日本による支配のせい以外の何物でもない。

現在、民間でアイヌ語を復興させて受け継いでいこうとする運動はあるものの、それだけではアイヌ語をアイヌ民族の人々の母語として復活させることはほぼ不可能に近い。

日本政府がこれまでの悪政の責任を取って北海道の小中学校において義務教育でアイヌ語を教育するなどの思い切った政策を打ち出しでもしない限りにおいては、いずれ近い将来にアイヌ語が消滅することは避けられないであろう。



目次
1. ユネスコがアイヌ語を消滅危機言語に指定
2. アイヌ語が消滅危機にあることは日本の文化庁も認めている
3. 日本はニュージーランドのマオリ語復興・公用語化を見習え
4. アイヌ語が衰退したのは文字がなかったせいだという嘘



ユネスコがアイヌ語を消滅危機言語に指定


八丈語? 世界2500言語、消滅危機 日本は8語対象、方言も独立言語 ユネスコ魚拓

2月20日付け夕刊1ページ 1総合

【パリ=国末憲人】世界で約2500の言語が消滅の危機にさらされているとの調査結果を、国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部パリ)が19日発表した。日本では、アイヌ語が最も危険な状態にある言語と分類されたほか、八丈島や南西諸島の各方言も独立の言語と見なされ、計8言語がリストに加えられた。

調査は、全世界で6千前後あるといわれる言語を調査。538言語が最も危険な「極めて深刻」に分類され、このうち199語は話し手が10人以下だった。続いて「重大な危険」が502語、「危険」が632語、「脆弱(ぜいじゃく)」が607語だった。サハラ以南のアフリカ、南米、メラネシアで目立っていた。

また、1950年以降消滅した言語が219語にのぼった。最近では08年、米アラスカ州でイヤック語が、最後の話者の死亡で途絶えた。

日本では、アイヌ語について話し手が15人とされ、「極めて深刻」と評価された。財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構(札幌市)は「アイヌ語を日常的に使う人はほとんどいない」としている。アイヌ語はロシアのサハリンや千島列島でも話されていたが、いずれもすでに消滅していた。

このほか沖縄県の八重山語、与那国語が「重大な危険」に、沖縄語、国頭(くにがみ)語、宮古語、鹿児島県・奄美諸島の奄美語、東京都・八丈島などの八丈語が「危険」と分類された。ユネスコの担当者は「これらの言語が日本で方言として扱われているのは認識しているが、国際的な基準だと独立の言語と扱うのが妥当と考えた」と話した。

ユネスコは96年と01年にも危機にさらされている言語調査を実施。今回は30人以上の言語学者を動員して全世界を包括的にカバーする例のない規模の調査となった。目的について、ユネスコは「言語は常に変化する。その変化の実態を知るため」と説明。今後継続的に調査を続けるという。

ユネスコのフランソワーズ・リビエール事務局長補は「言語消滅の原因には、次世代に伝える意思を失うという心理的要素が大きい。自信を持って少数言語を話せるよう条件づくりに努めたい」と話している。



※管理人注:

この件については、ユネスコの「UNESCO Atlas of the World's Languages in Danger」サイトで、「Search tools」の「Country or area」を「Japan」に設定して「Search languages」をクリックして検索を行えば「Ainu (Hokkaido)」と出るので、これによってユネスコによるアイヌ語の消滅危機言語指定は事実であることが確認できる。

なお、多くの日本人がダライ・ラマ一味のプロパガンダを真に受けて槍玉に挙げる中国のチベット語やウイグル語は実際には消滅危機の状態にはなく、中国政府によって適切に保護されているので、ユネスコのサイトでも消滅危機言語に指定されていない。



アイヌ語が消滅危機にあることは日本の文化庁も認めている


消滅の危機にある言語・方言魚拓

日本の言語・方言の中には,消滅の危機にあるものがあります。

それには,ユネスコ(国連教育科学文化機関)が平成21年2月に発表した“Atlas of the World’s Languages in Danger”(第3版)に掲載された8言語・方言や東日本大震災の被災地の方言が該当します。

文化庁では,消滅の危機にある言語・方言の実態や保存・継承の取組状況に関する調査研究をはじめ保存・継承に資する様々な取組を行っています。

“Atlas of the World’s Languages in Danger”(第3版)には,世界で約2,500に上る言語が消滅の危機にあるとして掲載されています。日本国内では,8言語・方言が消滅の危機にあるとされており,掲載されている8言語・方言とそれぞれの危機の度合いは次のとおりです。

【極めて深刻】: アイヌ語

【重大な危機】: 八重山語(八重山方言),与那国語(与那国方言)

【危険】: 八丈語(八丈方言),奄美語(奄美方言),国頭語(国頭方言),沖縄語(沖縄方言),宮古語(宮古方言)

※ユネスコでは「言語」と「方言」を区別せず,全て「言語」で統一しています。



日本はニュージーランドのマオリ語復興・公用語化を見習え


文化人類学者・宮里孝生氏の論文から引用する。
ニュージーランド先住民マオリの同化と自立魚拓

植民地政府は、教育政策においても、マオリの西洋化を進めていく。1867年には先住民学校法が施行し、学校ではマオリ語使用は禁止され、英語のみで授業が行われることになる。結果、マオリ語話者の人口が減少し、言語の消滅が危惧される状態にまで陥った。言語的同化のみならず、西洋的価値観の移入という点においても、教育政策は宗教的同化とともにパケハ(管理人注:ニュージーランド白人のこと)にとって好都合なものとして働いた。

こうして経済的基盤である土地の多くを失い、言語を否定され、伝統的価値観までもパケハの都合によって曲げられたマオリは、集団帰属意識の相対的低下、伝統的社会構造の変容、さらには伝統芸能や儀礼の衰退など、文化的にも社会的にも多くの所産を失う破目になった。

(中略)

先住民文化の象徴ともいえるマオリ語は、一時は消滅が危惧されたものの、1960年代後半から70年代初頭に始まる言語文化復興運動をきっかけとして言語的地位が向上した。1987年にはマオリ語法が施行し、英語とともに公用語として公的な場での使用が正式に認められるまでに至った。現在ではマオリ語習得を促す教育機関も幼児教育から高等教育すべてのレベルにおいて整えられ、多くのマオリ子弟がバイリンガルに育っている。大人世代もマオリ語習得(あるいは再習得、運用能力の向上)を目指し、地域のマオリ語学校、テレビ、ラジオ等を利用して学習する者が多くみられ、言語文化復興に対する意識の高さがうかがわれる。
ニュージーランドのマオリ語復興は、一度消滅しかけた先住民族・少数民族の言語を復興させて公用語にまですることは十分に可能であるという好例である。

近年のアイヌ民族の人々の間では、このマオリ語復興にならってアイヌ語を復興させようとする動きがある(
アイヌイタク 復興の会)が、今のところはその影響力は小規模なものにとどまっている。

ごくごく一部の人々を除き、アイヌ語が消滅危機言語となっている差し迫った現実に対して「過去のことだから仕方がない」と決め付けて水に流し、社会全体で努力すれば復興させられるはずのものを復興させようとせず、何の責任も取ろうとしないのは、まぎれもなく過去ではなく現在の日本および日本人の所業である。

日本および日本人に人としての良心があるのならば、アイヌ語をこんにちのような惨状に追い込んだ国家およびその国民としての責任を取るのが筋である。



アイヌ語が衰退したのは文字がなかったせいだという嘘


これまでの日本による悪政のせいでアイヌ語が消滅危機に追い込まれているという現実を前に、どうにかして日本国家の責任を回避しようと、「アイヌ語が衰退したのは文字がなかったせいであり、日本のせいではない」という言い訳をする往生際の悪い日本人がいる。だが、これはそもそも言語とは何かを全く理解していない低次元な嘘である。

北海道大学アイヌ・先住民研究センターの丹菊逸治氏は次のように述べている。
出典:『アイヌ民族否定論に抗する』(河出書房新社)のP239-240

アイヌ語が衰退したのは文字がなかったせいか

アイヌ語の衰退は「文字がなかったこと」が原因ではなく、直接的には言語共同体の崩壊と学校での日本語教育の強要だった。間接的には日本のモノリンガル方針も影響した。当時は「バイリンガル」についてあまり明確な方針がなく、基本的には誰もが単一言語使用を目指していたのである。そのためほとんどの人々が「日本語か、アイヌ語か」という二律背反的な選択しかない、と思い込んでいた。当のアイヌ民族自身もそう思っていたふしがある。あるいはもっと極端に「固有の言語を知っていると、日本語(英語)の習得の妨げとなる」は世界中の先住民族や少数民族にみられる思い込みである。実際には、共同体さえしっかりしていればバイリンガルは可能なのである。

「文字を持つ民族/文字を持たない民族」という二分法はおそらく現在では通用しまい。EUを見れば分かる通り、すでに国民国家同士が異なる言語を単一言語として有することすら困難になってきている。「文字があるだけ」では単一使用言語としては不十分で、巨大な市場が必要となって来ているのだ。だからこそ世界中の先住民族は「文字が有っても勝てない」のを前提にバイリンガルによる言語保存を目指している。アイヌ民族も例外ではない。「アイヌ語だけで暮らす人々」が今いないのは当然として、将来的にも「日本語もアイヌ語も話せること」を目指そうとしているのだ。
このように、日本が同化政策によってアイヌ民族の言語共同体を破壊し、バイリンガル(2ヶ国語)教育を行わず、日本語によるモノリンガル(単一言語)教育を強要したことがアイヌ語衰退の最大の原因である、というのが学問の世界での通説である。

そもそも、文字があろうがなかろうが、その言語を話す共同体が存在してさえいれば言語は存続するというのは、日本に完全に支配される以前の何百年にもわたってアイヌ語がアイヌ民族の母語として話されてきた事実だけを見ても明らかである。それが明治時代以降、完全に日本の支配下に置かれてから急速に衰退したのは、日本の悪政のせい以外の何物でもない。

人は生まれてすぐに文字を使って母語を勉強するのではなく、初めは文字が読めない中で親や周囲の人々が話す言語を聞いて本能的に吸収していくことで母語を覚えるのである。文字はもっと成長した後になってから幼稚園や学校の教育で覚えていくものであるはず。これは漢字を使う日本語や中国語のように複雑な文字を使う言語ならなおさらで、生まれたばかりで鉛筆の持ち方すら知らない赤ん坊がどうやって漢字を覚え、読み書きしながら言語の勉強をするというのだろうか?

つまり、文字がなくても人は母語を覚えることはできるのであり、母語の習得と文字の有無の間には基本的に何の関連性もない。幼いうちに本能的に母語を覚えること(かつてアイヌ民族が使っていたアイヌ語はこちら)と、大人になってから非本能的に外国語を勉強することを同じように考えて混同してはいけない。

さらに言えば、アイヌ語が元々文字のなかった言語とはいえ、ローマ字やカナといった文字を使って表記することが可能なのは
知里幸恵『アイヌ神謡集』魚拓)などを見ても明々白々なことであり、そういった方法でも日本国家がアイヌ語を保存する努力をしてこなかったのは、まぎれもなく日本国家の責任である。

日本および日本人に人としての良心があるのならば、アイヌ語をこんにちのような惨状に追い込んだ国家およびその国民としての責任を…(ry



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