現代においても残り続ける日本のアイヌ差別

日本人の多くはアイヌ民族についてほとんど何も知らないし関心もないこともあって、「現在の日本にはアイヌ差別はない」と漠然と思い込んでいる。しかし、当のアイヌ民族の人々はその7割が「現在の日本にはアイヌ差別がある」と認識している。

アイヌ民族は、明治時代以来の日本の同化政策により日本人になることを強制され、彼らは今や一般の日本人(和人)とほとんど変わらない環境下で暮らしている。にもかかわらず、今なお経済や教育の面で和人とアイヌ民族との間には有意な格差が存在し、社会に根強く残る偏見によりアイヌ民族の人々は様々な不当な扱いを受けている。これは明らかな民族差別である。

また、よく日本によるアイヌ民族への迫害の歴史をなかったことにしたい右翼日本人が、いい加減なデマ情報を根拠に「今いる自称アイヌは利権目当ての和人や在日朝鮮人による成り済ましだ」などと決め付けたりもしているが、そんなことをしていること自体が既にアイヌ民族の人々に対する存在の全否定でありれっきとした民族差別そのものであることを、脳味噌と人格の腐りきった右翼日本人どもは自覚しなければならない。



目次
1. 日本政府が調査した日本のアイヌ差別の現状
2. ドゥドゥ・ディエン・レポートに記述された日本のアイヌ差別



日本政府が調査した日本のアイヌ差別の現状


こういう報道がある。
アイヌ差別・偏見「ある」72%/政府が初の意識調査魚拓

2016/02/26 19:21

政府は26日、差別の実態や理由を分析するため、アイヌの人々に対象を限定し初めて全国で実施した意識調査結果を公表した。現在は差別や偏見があると思うか聞いたところ、「ある」との回答が72・1%に上った。「ない」は19・1%。

これとは別に国民全体を対象にしたアイヌに関する世論調査結果も公表。同様の質問に対し「ない」が50・7%、「ある」が17・9%で、アイヌの人々との意識の差が浮かび上がった。

内閣官房アイヌ総合政策室は「アイヌ民族との共生社会実現に向けて、学校教育での取り組みを充実させるなど啓発活動が必要だ」としている。
これらの調査の元ソースは以下のリンクから確認できる。

アイヌの人々を対象とした調査魚拓) - 2015年10月26日から同年11月20日に実施。
日本国民全体を対象とした調査魚拓) - 2016年1月14日から同24日に実施。
両調査を比較したもの魚拓

これらの調査の結果によれば、「アイヌに対して、現在は差別や偏見があると思いますか。この中から1つだけお答えください」という質問に対し、

アイヌの人々は、
・ あると思う 72.1%
・ ないと思う 19.1%
・ わからない 8.8%

日本国民全体(9割を超える圧倒的多数が和人)は、
・ あると思う 17.9%
・ ないと思う 50.7%
・ わからない 31.4%

…と回答したとのことである。

ここまでは報道の通りである。しかし、ここで注目すべきなのはアイヌの人々と日本国民全体の双方の認識に著しい隔たりがあることである。

自分がまさに積極的に差別をしている張本人なのに「差別はない」などとトボケるイカれた右翼日本人は論外にしても、大多数の日本人は自分が差別をする側にいるという実感が本当にないのであろう。にもかかわらず、アイヌの人々は7割もの人々が「差別はある」と言う。

これは、歴史的に他の民族から迫害されてきた経験がほとんどない日本人ならではの感覚と言える。日本人は第二次世界大戦敗戦後のごく短い米軍占領時代を除き、他国の支配を受けたことがない民族である。

だからこそ、ごく一部の国際感覚が身についた左派・リベラルの人々を除き、大多数の日本人は一般に何が差別で何が差別でないのかが根本的にわかっておらず、日本社会に存在する様々な格差を無視して「日本は差別が少ない国だ」などと漠然と思い込む一方で、日本政府が(「日本人が」ではない)他国やマイノリティの人々から批判されただけで、それを政府ではなく自分たち自身に対して向けられた敵意だと勘違いして、「日本人差別だ」などと的外れな騒ぎ方をするようなトンチンカンな輩が続出するのである。

それが、数百年もの間、日本による侵略と支配に幾度も苦しめられてきたアイヌの人々との間に、これほど大きな差別への認識のギャップを生んでいるのである。

ちなみに、アイヌの人々のうち「差別はある」と回答した7割の人々の意見を、同調査結果からもう少しだけ掘り下げておくと、

■「なぜ差別や偏見があると回答しましたか。この中からいくつでもあげてください」
・ 漠然と差別や偏見があるイメージがある 54.7%
・ 家族・親族・知人・友人が差別を受けている 51.4%
・ アイヌが差別を受けているという具体的な話を聞いたことがある 51.2%
・ 経済格差や教育格差がある 45.9%
・ 自分が差別を受けている 36.6%
・ その他 10.8%
(「あると思う」と答えた者のみ。複数回答)

■「どのような場面でどのような差別を受けましたか。この中からいくつでもあげてください」
・ 自分に対して直接的ではないが、自分がアイヌであることを知らない周囲の人がアイヌに対する差別的な発言をしているのを聞いた 62.9%
・ 結婚や交際のことで、相手の親族にアイヌであることを理由に反対された 57.5%
・ 職場で、アイヌであることを理由に不愉快な思いをさせられた 53.8%
・ 近所、自治会等で、アイヌであることを理由に疎外された 17.7%
・ 学校で、アイヌであることを理由に不愉快な思いをさせられた 1.1%
・ その他 14.5%
(「自分が差別を受けている」と答えた者のみ。複数回答)

■「家族・親族・友人・知人が受けたのはどのような場面でどのような差別でしたか。この中からいくつでもあげてください」
・ 学校で、アイヌであることを理由に不愉快な思いをさせられた 62.8%
・ 結婚や交際のことで、相手の親族にアイヌであることを理由に反対された 56.7%
・ 本人に対して直接的ではないが、本人がアイヌであることを知らない周囲の人がアイヌに対する差別的な発言をしているのを聞いた 55.9%
・ 職場で、アイヌであることを理由に不愉快な思いをさせられた 45.6%
・ 近所、自治会等で、アイヌであることを理由に疎外された 12.6%
・ その他 10.7%
(「家族・親族・友人・知人が差別を受けている」と答えた者のみ。複数回答)

…とのことである。

このように、アイヌに対する差別や偏見が現在もあると答えた7割ものアイヌの人々のうち、36.6%が自分が差別を受けていると、また51.4%が自分の家族・親族・知人・友人が差別を受けていると、具体的な差別の内容を挙げて回答しているのである。

これで「アイヌ差別はない」と断じるのは、いくらなんでも無理があるというものである。



ドゥドゥ・ディエン・レポートに記述された日本のアイヌ差別


2006年に国連人権委員会特別報告者のセネガル人ドゥドゥ・ディエン氏が発表した、「ドゥドゥ・ディエン現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容に関する特別報告者による日本への公的訪問に関する報告書」(ドゥドゥ・ディエン・レポート)のうち、アイヌ差別について記述された部分を抜粋する。

人類史上最も過酷な人種差別を受けてきた人種の一つであるアフリカ人の人権活動家から見ても、日本のアイヌ差別は深刻なのである。



ドゥドゥ・ディエン現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容に関する特別報告者による日本への公的訪問に関する報告書魚拓

現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪(Xenophobia)および関連する不寛容に関する特別報告者は、その責務に基づき、2005年7月3日から11日に日本を訪問した。特別報告者は、カースト類似の身分制度の結果生じたマイノリティ、先住民族、旧日本植民地出身者およびその子孫、外国人ならびに移住労働者を含むさまざまなマイノリティ集団に影響を及ぼしている差別の要因について、評価を行なった。

特別報告者は、日本には人種差別と外国人嫌悪が存在し、それが3種類の被差別集団に影響を及ぼしているとの結論に達した。その被差別集団とは、部落の人びと、アイヌ民族および沖縄の人びとのようなナショナル・マイノリティ、朝鮮半島出身者・中国人を含む旧日本植民地出身者およびその子孫、ならびにその他のアジア諸国および世界各地からやってきた外国人・移住者である。このような差別は、第一に社会的・経済的性質を帯びて表れる。すべての調査は、マイノリティが教育、雇用、健康、居住等へのアクセスにおいて周辺化された状況で生活していることを示している。第二に、差別は政治的な性質を有している。ナショナル・マイノリティは国の機関で不可視の状態に置かれている。最後に、文化的・歴史的性質を有する顕著な差別があり、それは主にナショナル・マイノリティならびに旧日本植民地出身者とその子孫に影響を与えている。このことは主に、これらの集団の歴史に関する認識と伝達が乏しいこと、およびこれらの集団に対して存在する差別的なイメージが固定化していることに現れている。

(中略)

I.一般的背景

(中略)

B.歴史的および社会的文脈

アイヌ民族

5.日本人は15世紀にアイヌ民族伝来の土地である北海道に移住を開始し、アイヌ民族に対し、その主な生活の営みである狩猟や漁労、また伝統的儀式を行なうことを妨げる厳しい規則を課した。1867年の明治維新以降、近代日本国家は北海道の開拓を開始した。近代日本国家は、アイヌ民族同化政策を公式に採用してその土地を没収したため、アイヌ民族の社会と文化は致命的な打撃を受けた。日本政府が「単一民族国家」としての日本という概念を初めて問題にし、アイヌ文化の独自性とその保護の必要性を認めた法律を採択したのは、ようやく1990年代に入ってのことである。

(中略)

II.公的機関の政治的・法的戦略

(中略)

B.アイヌ民族

22.アイヌ民族政策を担当する国土交通省は、最新の調査によれば日本の北海道には24,000人のアイヌ民族がいると発表している。しかしながら、この調査にはアイヌ民族であることを宣言している人びとしか含まれていない。アイヌ民族の多くは、差別から逃れるために自らのアイデンティティを隠しているのである。同省は、17世紀から19世紀の間に北海道のアイヌ民族が強制労働させられ、資源を剥奪され、伝統的活動を行なえないようにされたことを認めている。1867年の明治維新以降、近代日本国民国家は北海道の開拓を開始するとともに、同化政策をとったので、アイヌ民族の社会と文化は致命的打撃を受けた。この状況は20世紀まで続いた。

23.1997年、アイヌ文化振興法が制定された。これにより、同法の実施を担当する財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構が設立された。この法律では、アイヌ語とアイヌ文化の振興ならびにアイヌ民族に関する研究、アイヌの伝統に関する知識の普及が規定されている。同機構はアイヌ語教室を開催しているが、アイヌ語の消滅を防止するための特別な文献を作成する計画はない。

24.アイヌ民族に対する差別に関連して、同省は、アイヌ民族が主に直面しているのはいやがらせや結婚の拒否であると報告している。社会指標については、高校卒業後に高等教育機関に進学するアイヌ民族の割合は、一般地域平均が34.5パーセントであるのに対して、16.1パーセントである。アイヌ民族を特に対象とする奨学金プログラムは存在するが、アイヌ民族の学生を対象とする大学入学枠は、憲法違反になると考えられているために設けられていない。

25.厚生労働省は、アイヌ民族のための職業オリエンテーション・プログラム、人材募集サービスおよび就職のための支度金の貸付を行なっている。同省は、アイヌ民族に対する差別について経営者に事情説明を行ない、アイヌ民族の採用を促進している。法務省は、個人間の紛争や苦情に関するケースに関して当事者間を仲介する法律サービスを地域で行なっている。例えば、一方がアイヌ民族出身者であることと関連して結婚が拒否されるような場合、紛争解決のために法律サービスが介入して仲介を行なう。

26.1997年の法律はアイヌ文化に関するものではあるが、アイヌ民族の人権の促進については触れていない。この点について、国土交通省は、日本国憲法では日本人一人ひとりの法の前の平等が保障されていると述べている。したがって、先住民族としての権利を認めろというアイヌ民族の要求は、憲法違反となるため満たされえないこととなる。

(中略)

III.関係する集団による自らの状況の提示

(中略)

B.アイヌ民族

43.アイヌ民族コミュニティは、自分たちに対する差別を非常に強く感じている。1999年の北海道庁による調査によると、インタビューを受けた28.1パーセントの人びとが、差別を経験したことがある、または差別を経験したことのある人を知っていると述べていた。差別を経験した状況は、順を追って、学校で、結婚のことで、職場でとなっている。この調査によると、アイヌ民族の子どもの高校進学率は、地域平均が97パーセントであるのにに対して95.2パーセントである。大学進学率の差はきわめて大きくなり、地域平均が34.5パーセントであるのに対してアイヌ民族では16.1パーセントとなっている。

44.アイヌ民族の子どもが学校で直面する差別は深刻な問題である。アイヌ民族の子どもはきわめて強くさげすまれており、そのようなさげすみが耐えられなくなって学校を離れる者もいる。このことは家族全体の生活に影響を及ぼし、時には他の地域に引っ越すことを余儀なくされるほどである。また、差別のもうひとつの帰結として、子どもたちが自分たちのアイデンティティを恥じるようになる傾向が見られる。そのために、主流文化に同化し、自分たちの文化や誇りを失う傾向にあるのである。アイヌ民族の大人にも、仕事や住居を探す際に差別を受けることを恐れ、アイデンティティを隠す者が多い。

45.アイヌ民族に対する差別は、主として過去の偏見や不当な取扱いに基づいている。1899年の北海道旧土人保護法は、小区画の土地をアイヌ民族に譲渡して転農させることによる同化を目的としていた。1997年にようやく廃止されたこの法律によってアイヌ民族に与えられた土地は、北海道に移住した他の日本人に与えられた土地よりはるかに少なかった。現在、アイヌ民族が生活しているのは先祖の土地のわずかな面積にすぎない。またこの法律は、アイヌ民族の伝統的な生活様式とは全く異なる農業生活を強要し、民族文化の衰退を引き起こした。今日においてもなお、アイヌ民族は先祖伝来の伝統食である鮭を獲る自由を大きく制限されている。非常に限られた捕獲量を、鮭の質が落ちる指定漁区に限って、地区当局の許可(そのためにはさらに政府の許可が必要である)を得て初めて捕獲できるにすぎないのである。このような手続きは非常に不当であるように思われる。それは、アイヌ民族が伝統食を食べることを妨げるとともに、屈辱的な扱いでもある。先祖伝来の食物資源へのアクセスについて、公的機関に依存しなければならない立場にアイヌ民族を追いやっているためである。

46.アイデンティティの面では、日本人はアイヌ民族に対する歴史的な圧迫を正当化するために多くの偏見を作り出し、アイヌ民族は知性が低く、野蛮な文化を持ち、異なる外見をしているという考えを広めた。このような偏見は、アイヌ民族をおとしめ、自分たちの出自を恥じるようにさせるために用いられ続けている。しかし、1997年の法制定後、アイヌであることへの誇りを取り戻しつつあるアイヌ民族も多い。

47.アイヌ民族女性に関しては、北海道ウタリ協会の理事25名のうち女性は2名だけであるため、女性たちは女性理事の増員を望んでいる。アイヌの女の会が設立されたが、これは10名の女性によって構成される団体である。この会は、教育は家庭から始めるべきであるという考えを促進し、教育における母親の役割について議論し、女性が何世代にもわたって家庭で直面してきた差別について話し合っている。多くの女性が、日本社会一般も、また特にアイヌ・コミュニティも男性支配であり、女性は対等な立場で発言できなくされていると説明した。

48.アイヌ・コミュニティは、自分たちに対する差別の解決策は主として教育にあると信じている。北海道以外の日本人の多くは、アイヌ民族の歴史について何も知らず、あるいはアイヌ民族が存在していることさえ知らないか、アイヌ民族は外国人だと思っているのである。アイヌ民族は、均質ではない日本の歴史や文化の一部として、アイヌ民族の本当の歴史と文化が教えられることを必要としている。しかし、教師は学校でアイヌ民族の文化と歴史の実像を教えていない。その反対に、教師の多くは、たとえばアイヌ民族の子どもは10までしか数えることができないとクラスで発言することによって、アイヌ民族が劣等であるという、これまでと同じ差別的なイメージを伝達し続けている。

49.もうひとつの解決策は、アイヌ民族を先住民族と認めることにある。1997年の法律は、文化振興だけに関するものであるため、十分であるとはいえない。アイヌ民族は、この法律に、先住民族としてのアイヌ民族の地位を認めること、国際法に従って先住民族の権利を促進すること、および、アイヌ民族が直面している差別と闘うことが書き込まれることを望んでいる。しかし、政府はこの要求に応じていない。このような文脈において、アイヌ民族の代表は、神聖なるアイヌの土地を収用して建設された二風谷ダムに関する裁判で、札幌地方裁判所が1997年にアイヌ民族の先住性を認めたことに言及した。アイヌ民族は、世界でも、先住地として認められた土地を有しない数少ない先住民族である。

50.最後に、国政分野ではアイヌ民族が存在しない。過去にただ1人アイヌ民族出身の国会議員がおり、特別報告者はその人物に会うことができたが、現在はゼロである。アイヌ民族は、アイヌ・コミュニティに対する留保議席の割り当てを求めている。

(中略)

V.勧告

(中略)

85.(アイヌ民族に対する先住民族としての権利の保障)日本はアイヌ民族が先住民族であることを認めるべきである。国際法および国際基準に従って、先住民族が有する多くの具体的権利がアイヌ民族に対して認められなければならない。これに関連して、日本は先住民族および種族民に関するILO条約第169号(1989年)を批准することが奨励される。特別報告者はとりわけ、アイヌ民族が自分たちの伝統食を入手する権利を奪われているという事実に衝撃を受け、政府に対し、アイヌ民族がその生活領域において鮭を獲る自由を返還するよう促す。

86.(マイノリティの政治的代表の確保)国の機関において、マイノリティが政治的に代表されることを確保すべきである。政府は、国会における代表枠の確保を求めるアイヌ民族コミュニティの要求に応じることが求められる。沖縄の人びとについても同様のことが構想されてよい。

87.(アイヌ民族メディアの創設)政府は、日本のメディアにおいて効果的に多元性を確保し、かつアイヌ民族の文化とアイデンティティを促進するための追加的かつ真に効果的な手段をアイヌ民族が得られるようにするために、アイヌ民族が運営し、公的資金を財源とする独立したアイヌ民族メディアの創設を促進すべきである。



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